江戸時代の享保年間に創業した「本家 柴藤」は、300年以上の歴史を誇る淀屋橋のうなぎの名店である。創業当初は川魚商として将軍家にも魚を献上しており、八代将軍・徳川吉宗の勧めで、大阪城付近で屋形船から料理を提供する形で「柴藤」として料亭を開業したことに始まる。川の多い町で船上の食事は風流そのものであり、その情緒と技を引き継いで現在に至る。


その後、店舗は土佐堀川の南岸に移転し、やがて屋形船営業から陸上の店舗営業へと変化。1990年(平成2年)、三休橋筋界隈へ移転し、現在の地に落ち着いた。


調理法は関西風の「地焼き」が基本。若くて柔らかいうなぎを腹開きにし、炭火で香ばしくパリッと焼き上げる。これを保存し続ける技術と伝統が、創業からの歴史を支えている。
「“焼き一生”という言葉があるように、うなぎは一尾ごと、季節ごとに味が違うからこそ、美味しく焼くには一生かかると言われています。おまけに串打ちに八年、裂きに三年と、毎日が修行です。だからこそ値段に恥じない一串を焼く努力を絶やさないようにしています」と、14代目女将・柴藤滋子さんは語る。
また、美味しさの秘訣はタレにもある。構成は主にみりんとたまり、酒は灘のものを少量と、一握りの生ざらめ(砂糖)。創業以来の製法を守り続けた伝統の味である。タレは“生き物”ゆえ、冷蔵を避け、元種を見極めて毎日呼吸をさせるという。微妙に異なる毎日の味の変化。うなぎとあわせることで、初めて「柴藤の味」となるのだろう。


名物の「大阪まむし」は、ご飯とご飯の間にうなぎを挟んで蒸す手法。ご飯の“間(ま)”にうなぎを蒸すことから「間蒸し」と呼ばれ、それが訛って「まむし」として広まったとされる。この工夫こそが柴藤の代々伝わる独創であり、上方うなぎを代表する逸品になった。
うなぎの質の向上に伴い、現在はご飯の上にものせる形が主流に。蓋を開けた時からうなぎがあるのは、やはり心が躍る。うなぎは身が柔らかいのに皮がパリッとし、間蒸しされたうなぎはより一層ふんわり柔らか。一度に二種類の美味しさを楽しめる。タレは甘さ控えめの上品な味つけで、ご飯とうなぎとの相性も抜群。汁物は、肝吸いか赤だしを選べるのも嬉しい。初めてなら「大阪まむし」を、通には蒲焼きと白飯の別盛りがお薦めだそう。


淀屋橋界隈で江戸時代から受け継がれた味と文化に浸ることができる「本家 柴藤」。歴史ある町並みとともに、関西風うなぎの深い味わいを楽しんでいただきたい。 (お支払いはクレジットカード又は現金のみ)※これは2025年9月現在の情報です。(M. M)



- 本家 柴藤
- 住所:大阪市中央区高麗橋2-5-2
- アクセス:大阪メトロ御堂筋線淀屋橋駅から徒歩約5分