神崎川のほとり、サイクリストに人気の「なにわ自転車道」を快走していると、出来島から千船へと向かう道中、ふと現れるのが堤防がカギ状に折れた特異な地形だ。その内側にひっそりと広がるのが、知る人ぞ知る大和田漁港、別名「大和田の船溜まり」。阪神本線「千船」駅、阪神なんば線「出来島」駅からともにおよそ400mほど。

高速道路の高架下に広がるこの漁港は、神崎川という一級河川に付随した、大阪市内でも極めて珍しい存在である。一般的な海に面した漁港とは異なり、内陸の入り江に静かに佇むその姿は、どこか隠れ里のような趣をたたえている。そして、この船溜まりの真ん中に鎮座しているのが、小さな祠の白天宮である。漁の安全や航海の守り神として、地域の人々に大切にされてきたのだろう。漁港の中に神社があるという、他に類を見ない光景は、訪れる者に独特の神秘的な印象を与える。


大和田の船溜まりの歴史を紐解くと、慶長年間(1596年〜)にまで遡る。当時、佃村と大和田村の両村の人々は、徳川家康が摂津多田神社へ参詣する際に、神崎川の渡し船などを務めた。その功績により、江戸城への魚の献上という重要な役割を担うことになったと言われている。この由緒ある歴史が、この小さな漁港に深みと重みを与えている。
普段は地元の人々ですらその存在をあまり意識することのないという大和田の船溜まり。しかし、その意外性こそが、この場所の魅力なのかもしれない。静かな水面とそこに浮かぶ漁船、そして中央に鎮座する神社という、他にない風景に出会うことができる。(kano)
- 大和田の船溜まり
- 住所:大阪市西淀川区出来島1丁目10
- アクセス:阪神なんば線出来島駅徒歩2分
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