天王寺は、大阪の中でもとりわけ歴史と文化の香りが濃く残るまちである。四天王寺や夕陽丘、上町台地といった地名には、長い時をかけて育まれた風景と人びとの営みが刻まれている。そんな天王寺の一角に静かに佇むのが、「天王寺区役所」である。
現在の庁舎は、平成8年(1996年)に建てられたものであるが、その設計には、かつての庁舎の意匠が丁寧に受け継がれている。正面玄関に設けられた円柱や、外壁の装飾に見られるテラコッタ、そして3階の講堂に飾られたステンドグラス。これらはいずれも、昭和3年(1928年)に完成した旧庁舎から継承されたものである。
旧庁舎が建てられたのは、もともと「毘沙門池(びしゃもんいけ)」と呼ばれた灌漑用の池のある場所だった。昭和初期、その池を埋め立てて区役所が建設され、地域の行政の中核を担う場所として長年にわたり親しまれてきた。現在も庁舎敷地内には、池の記憶を伝える「毘沙門池記念碑」が残されており、当時の風景に思いを馳せることができる。
日々の暮らしのなかでは、区役所は用事を済ませるために訪れる場所として見られがちである。しかし、天王寺区役所には、建物に刻まれた歴史、受け継がれてきた意匠、まちと共に歩んできた記憶、静かながらも確かな“まちの物語”が息づいている。※これは2025年4月現在の情報です(M.M)
※施設内は一般には非公開となり、見学できません。
- 住所:大阪市天王寺区真法院町20-33
- アクセス:JR桃谷駅から徒歩約11分
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