大阪・肥後橋のオフィス街に、周囲の高層ビルとは一線を画す、温かみのある佇まいの名建築がある。それが江戸堀コダマビルである。ここは、昭和初期の豪商の暮らしを今に伝える、極めて貴重な「生きた建築」だ。


江戸堀コダマビルの歴史は、建築主である児玉竹次郎の立身出世の物語と重なる。明治初期の1878年に岐阜で生まれた竹次郎は、12歳で大阪へ丁稚奉公に出た。1902年に独立して「児玉竹平商店」を創業。ワイシャツやカフスの製造販売、さらに綿布商として大成功を収めた。


事業の成功を受け、1935年(昭和10年)に自身の本宅としてこのビルを建てた。当時、付近には江戸堀川が流れており、水辺の風景に映える優美な住宅であった。大阪大空襲により周囲の店舗は焼失したが、鉄筋コンクリート造であったこの邸宅は奇跡的に焼け残った。


外観は、赤い瓦屋根や半円形のバルコニーが目を引くスパニッシュ様式を基調としている。しかし細部を見ると、日本の伝統的な「青海波」の模様や、寺社の建築に見られる「肘木」のような装飾が施されており、東洋と西洋が見事に融合している。内部は、大阪の町家特有の「鰻の寝床」状の奥行きを持ちながらも、竣工当時から全館暖房や水洗トイレを備えるという、当時の最先端を行く文化住宅であった。


その保存状態の良さと歴史的重要性から、2007年に国登録有形文化財に登録。さらに2014年には、大阪市「生きた建築ミュージアム・大阪セレクション」に選定。かつての商家の暮らしの記憶を留めながら、現代の都市文化と共生し続ける江戸堀コダマビルは、大阪という街の奥行きを象徴する存在である。※2026年1月時点の情報です。(かの)
- 住所:大阪市西区江戸堀1-10-26
- アクセス:OsakaMetro四つ橋線「肥後橋」駅から徒歩約1分/京阪中之島線「渡辺橋」駅から徒歩約5分
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